神戸家庭裁判所尼崎支部 昭和63年(少)769号 決定 1988年11月11日
少年 O・K子(昭51.11.30生)
主文
少年を教護院に送致する。
少年に対し、昭和63年11月11日から向う3年間の間に通算180日を限度としてその行動の自由を制限する強制的措置をとることができる。
理由
1 非行事実
少年は14歳に満たない者(昭和51年11月30日生)であるが、
(1) 昭和62年8月25日午後2時ごろ、尼崎市○○字○○××番地の×尼崎市立○○小学校体育館ステージにおいて劇の練習をしていた同校×年×組A子(当時10歳)(昭和52年2月26日生)に対し、「今までに言ったいじめのことを言え」等と因縁をつけ同人に対し、左手拳骨で右側口あたりを殴打する暴行を加え、よって同人に全治3日間を要する口腔内頬粘膜裂傷及び上顎右側乳犬歯脱臼脱落の傷害を負わせ、
(2) 昭和62年9月3日午前9時40分ごろ、尼崎市○○字○○××番地の×尼崎市立○○小学校×年×組教室において同級生B(当時10歳)(昭和52年2月14日生)に対し、所携のピンク色のカッターナイフで同人の背部を服の上から3回切りつけ、同人に全治4日間を要する背部擦過創(背部に擦過創程度の切創3ヶ所)の傷害を負わせ、
(3) 昭和62年10月1日午後5時30分ごろ、尼崎市○○町××番地、○○公園において、同公園内で遊んでいた尼崎市立○○小学校×年×組C(当時9歳)(昭和53年5月5日生)に対し、「お前この前自転車に乗ってアホと言って逃げたやろ」等と因縁をつけ同人に対し、腹部を足蹴りし、更に土下座をさせた後、頭部及び手、並びに足を踏みつける等し、もって暴行を加え、
(4) 昭和63年7月21日午後3時ごろ、尼崎市○○字○○××番××号先路上においてD子(当時11歳)(昭和52年6月1日生)に対し、同人が顔を見たことに因縁をつけ追い回した末、手拳で同人の顔面を連打し、腹部を1回足蹴りにし、よって同人に対し、約4日間の治療を要する鼻部挫傷の傷害を負わせ、
(5) 昭和63年8月31日午前9時30分ごろ、尼崎市○○字○○××番地の×、○○堂○○寮××号E方においてF子(当時10歳)(昭和52年12月9日生)に対し、通行中出合ったとき顔を合せながら避けて逃げ帰ったことや過去に悪口を言われたと邪推し、因縁をつけ同人が「すみません」と謝ったところ、「その謝り方なんや」と言うなり頭髪を掴んで引っ張り腹部を1回足蹴りにする等の暴行を加えたものである。
(非行事実第(2)の事実認定上の争点に対する判断)
付添人(弁護士)は上記第(2)の非行事実は少年が敢行したものではない旨主張し、少年もこれに沿う供述をしているけれども、法律記録中関係各証拠を総合すると、優に第(2)の非行事実を肯認するに十分である。これに反する少年の否認供述は、一貫性がないうえ、不自然かつ不合理であり、かつ、これを裏付ける証拠が皆無であつて他の関係各書証と対比すると到底措信し難い。他に上記認定を左右するに足りる的確な証拠もない。従って付添人の前記主張は採用し難い。
(主文掲記の少年を教護院に送致した理由)
本件は少年にかかる傷害罪に触れる非行3件及び暴行罪に触れる非行2件を内容とする触法事案であるところ、いずれの非行についても酌量すべき動機が全く認め難く、理不尽の一語に尽きること、これに反し被害者ら側には非行を誘発した事跡は全く見当らず、かつ、非難に値いする言動も認め難いこと、各非行の態様は陰湿で執拗であるうえ、危険性も大であること、名被害者に与えた身体的及び精神的衝撃も軽視できないものがあること、少年らの粗暴な言動により少年の通学していた小学校はその対応に苦悩・忙殺され、年間約100時間も正常な授業が実施できなかったこと、少年及び保護者の脅迫的・威圧的な言動に怖え、近隣の者の中から少なくとも5家族も転宅する有り様であり、付近住民の疲労困ばいも甚しいこと、少年の資質は短気・冷酷で抑制力に乏しく、自己中心的であり、外向的・短絡的であって自分の気に入らないことがあると、すぐ感情的になって反抗的かつ粗暴な行動をとり、規則に従った行動を要求される学校生活では強い不適応を起こし、対人トラブルが絶えず、規範意識に欠け、虚言を弄し勝ちであり、内省的構えの乏しさから、逸脱行動が常習化してきていること、他面依存心が強いこと、保護者中、父親は少年を溺愛し、言目的になり、少年に対し冷静かつ理性的な指導ができなくなっており、母親はヒステリックで父親以上に公共的道徳心を欠き、他罰的で社会性も皆無で少年を善導することは到底期待し得ないのみか少年の悪性格を助長しており、母子分離が少年の健全な育成のため誠にやむを得ない必須な要件とすら考慮される迄に至っており、以上要するに家庭の保護能力が欠如した状態であること、少年は昭和62年9月3日以降全く登校していないこと、兵庫県西宮児童相談所の度重なる指導にも全く従おうとする態度を示そうとしないこと、その他記録に表れた諸般の事情に徴すると、もはや在宅保護によっては少年の健全な育成を期し難いと認めざるを得ず、この際、少年をいわゆるコテイジシステムを採用する教護院に収容した上、少年の生活態度の改善や他人との協調性、規範意識を身につけさせると共に無軌道な実父母に代わって良識ある教護(父)及び教母の厳甘適宜宜しきをえた愛情を注入して少年の健全な育成を図ることが必須である旨判断した次第である。
(強制的措置を付する理由)
少年を教護院に送致する場合でも、強制的措置を必要と認めるときは少年法6条3項の申し立を待って上記送致決定と併せて強制的措置の言渡しができると解すべきであり、その場合には同法18条2項の都道府県知事又は児童相談所長に対する事件の送致決定は要しないというべきである。
ところで、本件の場合少年を教護院に収容後逃走防止の設備のある特別の施設に収容し、少年の性行等に徴しその行動の自由を制限する強制的措置をとる必要が認められるところであるが、その期限は少年の資質及び累非行度並びに保護者の反社会的言動より考え昭和63年11月11日から向う3年間の間に通算180日を限度とするのが相当である。
2 適用法令
少年法3条1項2号(刑法204条、208条)
3 結語
少年に対する少年調査票、神戸少年鑑別所鑑別結果通知書及び審判の結果等を併せて考えると、少年の健全な育成を期するためにはその性格、これまでの行状、環境等に鑑み、教護院に収容して指導改善を施すのを相当とするので、少年法24条1項2号、6条3項、18条2項により主文のとおり決定する。
(裁判官 木村幸男)
〔参考1〕処遇勧告書
昭和63年少第769号、2407号、2514号、3071号
処遇勧告書
兵庫県西宮児童相談所長 殿
昭和63年11月11日
神戸家庭裁判所尼崎支部
裁判官 木村幸男
少年O・K子決定教護院送致(強制措置通算180日)
昭和51年11月30日生決定年月日昭和63年11月11日
勧告事項 (1) 両親その他保護者又はこれに準ずる者が少年に面会を求めてきた場合特段の事由がない限りこれを許可すべきであるが、面会のための時間を制限し、面会時間が終了したときは、直ちに強制力を用いても少年をその本来の居室に連れ戻すこと。
(2) 上記面会時面会人らが少年に対し人を殺傷の用に供し得る凶器を手交するかとうかを看視し、もし、これを少年に手交した場合には実力を行使して少年からこれを取り上げること。
(3) 少年が他の少年らに対しいわれのない暴行又は傷害等に及ぶかどうか特に看視し、もしこのような理不尽な行動に及んだ場合には必要に応じて施錠のできる場所に収容すること。
(4) 少年の逃走防止のため特段の配慮を払い、機宣に応じ適切かっ実効ある措置をとること。
(5) 送致すべき教護院はその規模、人的構成及び所在場所等に徴すると国立きぬ川学院が相当であると思料される。
〔参考2〕送致書(強制的措置許可申請事件)
宮児 第1997号
昭和63年11月4日
神戸家庭裁判所尼崎支部長 殿
兵庫県西宮児童相談所長
児童の送致について
下記児童の触法行為について当所の措置では指導至難と認められますので、少年法第6条3項、児童福祉法第27条の2により書類送致いたします。
記
児童
O・K子 昭和51年11月30日生 男・<女>
保護者
O・T 続柄 父 年齢 74 職業 無職
本籍
大阪市天王寺区○○町×丁目××番地
現住所
尼崎市○○字○○××番地
審判に付すべき理由
1 昭和63年3月10日付宮児第2863号及び昭和63年9月2日付宮児第1447号にて送致しているとおりである。
2 処遇意見
<1> 両親がすぐに連れ戻さない等の指導に従うならば明石学園での教護が適当である。
<2> もし、両親が指導に従わず、すぐに連れ戻す等により教護目的が達成されない虞れが予測されるならば、通算180日間の強制措置を付した上での教護院での指導は止むをえない。